もう六年くらい前の話。
その日、僕は友人と焼肉に行って、テンションそのままにカラオケをして、「エアーマンが倒せない」とか、「最終鬼畜一部声」とか叫んだ後に、ダーツをしちゃいましょうか! という話になって、しばしダーツタイムと洒落込んだ。
それで、久し振りだったので感覚が取り戻せなかったけど、2ラウンドくらいカウントアップやったら、やっと戻ってきてクリケットをやっていたんだ。
そうしたら、意識外からドスーン! っていう音がしたので音のする方を見てみたんですが、そうしたら、カバンが落ちてるのね。
カバンが落ちてたトコってのが、階段が二階に繋がってるとこの近くの床で、吹き抜けになってて、なんでカバンが落ちてきたんや。痴話喧嘩の犠牲なのか、なんてその時は軽く思ってたわけ。
次の瞬間、二階に続く階段の中ほどの手すりから、若い男が乗り出したわけ。
その人ったら、そのまま手すりを乗り越えて(高さは3.5mくらい)、そのまま手すりからぶら下がって宙ぶらりんになったの。
僕は酔っ払いが調子に乗って懸垂でも始めるのかと思ったら、違った。ちなみに、その酔っ払いの足下には、残念なことにショーケースがあったのね。
もう予想つくとは思うけど、酔っ払いまくってたその人は、懸垂なんかしようとせずにそのままジャンプして下に着地しようとしてたんだと思う。
アイ キャン フラーイ って感じでいこうと思ったんだと思う。
でも、いつでも足もとにも意識を張らないといけない。
その人は無様に落下してショウケースの上に落下して、ギャシャシャシャーン! ってガラスを割りながらショウケースの中に収まってしまった。
暫時、重力との鬩ぎ合いが起こって、ショウケースは頑張ってたんだけど、中の人が暴れたのか、ショウケースごと前面に倒れて、無残にゴッシャアアアアーーーン! っていう音と共にショウケースが砕け散った。見事過ぎた。映画のワンシーンみたいだった。不謹慎だけど、面白いものを見たと思った。
中に飾ってあったビリヤードキューとかバッキバキ、辺り騒然、僕も騒然、ガクガクブルブル震えてしまった。
ショウケースの中から青ざめた酔っ払いが出てきて、焦ったのか逃げ出そうとして立ち上がったけどそこは泥酔マスター、期待を裏切らず踏鞴を踏んで、ドグシャアって一旦倒れてガラスの上に横倒れ。だけど、逃げ出した。あれは本能に従ったんだろう。出口が近くにあったし、脳内麻薬はドクドクだったはずだ。ここに居ちゃやばいと悟ったに違いない。
僕は「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」って思ったけど、その酔っ払い、めちゃめちゃ逃げ足遅いの。まんまとカラオケの店員に捕まってしまった。 それで、辺りを見るとガラスで切ったんでしょうね。血だらけで出口の所の手すりにも血が凄い付着してた。床にも転々と。
その人は肘の所を盛大に切っていたみたいで、ジタバタせずに体育座りしていた。お店の人も焦ったのか救急車を呼んだらすぐ来ました。酔っ払いの人は凹んでました。
僕と友人はドキドキしながらダーツを続行したんだけど、狙いが定まらない。コンセントレーションが出来ない! 落ち着け! 俺!
救急隊員が酔っ払いの応急処置をしながら、めっちゃくちゃ怒ってんの。大怪我したらどーすんだ! 酒は呑んでも呑まれるな! なんて感じだったのだろうか。
何よりかわいそうだったのは、手すりに付着した血痕に気が付かずに店を出ようとした人が、ぐっ、と血に触れてしまったこと。その血に触れた男の人は店員にめっちゃ怒ってた。「ちゃんと拭いとけ!」って怒ってたけど、今回ばっかりは仕方がないと思う。あんなところから人が落ちてショーケースが大破するなんて思わないでしょ誰も。
あとで聞いた噂によると、ショウケースって結構高いらしくて、大破したのは相当高級なやつだったそうで、弁償となったらしい。数十万円の損失。
酔っ払い過ぎて記憶も曖昧だろうけど、目が覚めてそんなことをしてしまったと気が付いたら、焦るだろうなぁ。
今、あの人はお酒やめたのだろうか。やっぱり飲んじゃうのだろうか。