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The World of Kanako『渇き。』を鑑賞しました《感想・評価・レビュー》

救いようのない話が好き

 フィクションの世界で滅茶苦茶にやってるやつが大好物で、救いようのない登場人物がやりたい放題やって収拾がつかないままENDなんて、そりゃ世間的な評価を考えたら万人受けするわけがないんですが、私は心底好きなんです。

 小説でいったら戸梶圭太作品なんか、もう大好きですよ。不朽の名作『溺れる魚』や、デビュー作にして底抜けの闇を描いている『闇の楽園』、コミカルな中にも社会風刺が紛れている『牛乳アンタッチャブル』、個人的には一番最狂に感じている『未確認家族』などなど。どれも徹底的にヴァイオレンスでぶっ壊れてます。

 本作『渇き。』も好き放題、やりたい放題、滅茶苦茶やってますので、戸梶圭太作品的なアウトロー・カタストロフィ系が好きな方なら楽しめるでしょう。それ以外の方には辛いかも知れません。

 なお、散々書いてきて申し訳ないですが、まだ深町秋生先生の作品は読んだことがないので、本作の原作『果てしなき渇き』や人気のある八神瑛子シリーズなどは拝読させて頂こうかと考えております。すみません(はてなだと本人の目に触れる可能性がある)。

あらすじ

 元刑事・藤島(役所広司)の娘・加奈子(小松菜奈)が突如として失踪した。妻からその事実を聞かされた藤島は、自らの家族を取り戻すため、加奈子の行方を追うことを決める。しかし、加奈子の周辺を洗っていく内に、藤島も知らなかった加奈子の知られざる一面が表出する。


映画『渇き。』予告編

凄い、みんな自分本位だ!

 以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

 中島哲也監督といえば『告白』でのセンセーショナルな内容が印象に残っておりましたが、『渇き。』も相当にぶっ飛んでましたよ。この映画で最も強烈なキャラクターは役所広司が演じる藤島昭和なのですが、もうこの方がですね、この映画のテーマを体現してまして「人間なんて自分が思う通りに世界を作り変えたいんだろ?」って本能を具現化するその権化となって、物語の中で縦横無尽に暴れ回ります。彼以外にもアクが強い登場人物は多く、私が気に入ったのを挙げると、刑事時代の後輩・浅井(妻夫木聡)、警察組織に所属しながら殺し屋・愛川(オダギリジョー)、欲望に負ける医師・辻村(國村隼人)あたりでしょうか。何故か男性ばかりになってしまった。

 それでですね、本作の凄いところは、全員が全員、強烈に自分本位なんですよね。自分のための行動しかしないんですよ。他人のことを考えている人間がいない。主人公の藤島に至っては、口では幸せな家族を取り戻すためにやっていると言うのですが、結局それは藤島にとっての理想の家族を取り戻したいだけだと。藤島の無鉄砲過ぎる行動に、元妻の桐子(黒沢あすか)も強烈な拒否反応を示して「このキ◯ガイ!」と放送禁止用語まで叫んでしまいます。確かに藤島の行動は冒頭から結末までイっちゃってますから、そう言われても仕方がない。しかし、藤島は娘の加奈子を取り戻すために必死ですし、自分の行動こそ正しいと信じ込んでますから誰にも止められない。どんな妨害があっても行動をやめない。その矜恃については立派な男であると評価出来ます。

コミカルな表現で爆笑出来る

 この作品はヴァイオレンスな内容で、殴ったり蹴ったりは当たり前ですし、暴言もそこら中で飛び出るし、グロいシーンもちょこっとあるし、R15+なのも納得ですが、それ以上にコミカルで笑える演出が多くて素晴らしいと思います。

 特に、浅井と愛川のシーンが良い。浅井がまずヘラヘラしてて良い、妻夫木聡の好演ですね。彼はこういう軽薄な役も向いてるんだなぁと。観てて、ヘラヘラし過ぎでムカつきますもんね(褒め言葉)。それで、物語後半では浅井と藤島は半ば対立関係になるんですが、藤島が浅井を車でぶっ飛ばしたり、ぶっ飛ばしたり、敢えて二回書いたのは本編をご覧になった方なら分かるかと思いますが、あのシーンはマジで笑えます。3回くらい巻き戻して観てしまいました。浅井の「ジジイ〜」って呟くとこも良いですね。

 そして愛川ですが、本作のベストシーンじゃないでしょうか? 藤島と愛川の決闘シーン。もう滅茶苦茶ですよこれも。藤島は主人公のクセに愛川の妻子を人質に取って最高に卑怯で面白いんですが、真っ向勝負で掛かって来る愛川も色々と最悪で滅茶苦茶。車で引いたり、刃物で切ったり刺したりとか、やってることは凄惨なのですが、もう途中から「ギャグなのか!?」ってくらい藤島と愛川の不死身っぷりが半端じゃない。特に、愛川は面白いくらい不死身です。この決闘がデパートの屋上らしきところで繰り広げられるわけですが、その舞台設定の無機質感も素晴らしい。何度でも繰り返して観たい殺し合いです。この二人の戦いもまた、本作の本質的な無益感を演出していて良いなと評価します。うーん、やっぱり好きだな。

ファンタジーの部分はどうだろ

 そういえば書き忘れてましたが、この作品は二つの時間軸で描かれてまして、一つは藤島が娘を探す<現代パート>、そしてもう一つが「ボク」が加奈子と出会い破滅していく様を描く<過去パート>。この過去パートが「ボク」の加奈子に対する憧れや、無意識下の恋心などが描かれてるのですが、映画の勢い的にはもう少しスピード感が欲しかったかなと。まぁ、これは私の個人的な趣味・傾向のせいですが、どうしても藤島のストーリーと比べると「ボク」の方は優し過ぎるというか、ヴァイオレンスが足りない。もっと血だらけになったり、滅茶苦茶になったら面白かったのですが、案外と普通でした。そのため、藤島の疾走感溢れる展開が「ボク」の方では殺されてたんでないかと。目線が「ボク」になっているせいでファンタジー色も強く、そりゃ年頃の男が同級生に恋をしたら世界がファンタジーになるのはその通りなので、間違ってはいないのですが、別にファンタジーが観たいわけではなかったので……。

結末がまた救いようがない

 ハイライトとしては、先に書いた通りで、藤島の娘探しを妨害する組織との血で血を洗う抗争──あ、別にそんなこと書いてなかった! まあ、愛川との決闘シーンが一番良かったと思いますが、その後の展開は、ちゃんと加奈子の行方も分かるといえば分かるのですが、インパクトが少し弱かったかと。雪山であーだこーだしている内に「うーんっ」って思ってたらエンドロールに入って、「ああ! こういうパターンかっ!」と意表を突かれました。結局、藤島はあれだけ願っていた理想の家族はもう手に入れることは出来ないわけですね。しかし、もうヤク中にもなっちゃったし、完全に狂ってるわけですから、まだ何とかなると思っているわけです。加奈子さえ見付かれば、まだ取り返せる。何かがきっと変わると信じて。そう考えると、藤島はとても哀れな男で、本作は悲しい男の物語になる。嗚呼、救いようがないなぁと感じてしまいました。

 ただ、間違いがないように書いておきますと、私はこの作品が大好きなので100点です。またきっと観るでしょう。なお、表題の<The World of Kanako>は洋題です。よく出来てますよね。

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