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すべてはトゥリビアル『笑わない数学者 Mathematical Goodbye』を読みました《評価・感想・レビュー》

私は数学が苦手です

 数学って難しいのですが、それはただの先入観かも知れない。私は興味のあることにはのめり込めるので、数学では唯一<確率>は面白くて好きだった。あと、<集合>もそれなりに好きだった。それらだけは、考え方が文系っぽいといえば良いのか、理で語れる内容なので好ましかったのか、今は断片的にしか分からないが、少なくとも自分の頭でも解釈が可能で、理解が出来たからだ。恐らく、学問というものはどの分野にしろ興味を持って自らのエネルギーを消費すれば、それなりに実力も伴うものなのかも知れない。私は数字が並んでいるのを見るだけで目を瞑りたくなるので、どうにも数学という分野自体が向いていないのだと思う。

 まあ、そんな性質なものだから森博嗣のミステリって、ただでさえ理系ミステリと呼ばれているのに、今回読んだのは数学者の話ですからね、全部読み切れるのかな? 難しいお話が出てくるのでは無いだろうか? と不安も感じましたが、全く問題ありませんでした。むしろ前2作よりも分かりやすかったかな。

 本作では天才数学者が出て来ますが、その数学者が整合性を持って、理屈を理屈っぽく語るのがとても好ましい。私は理屈が好きだし、面倒で長大な話は好物なので、禅問答のような語り合いや、哲学的な議論には大きく興味を引かれるのです。もうね、ミステリ小説じゃなくても良いんじゃ無いかな? と最近は思ってきました。森博嗣の小説は、思想を読む小説として、私の中では評価されつつあります。まだ3作目なので時期尚早なのですが、S&Mシリーズを読み終える頃にはどのような評価になっているでしょう? とても楽しみです。

 なお、本書は文庫版で486ページ、読書時間は6時間半程度。うーん、日に日に本を読むスピードが遅くなってるな。

トゥリビアルという言葉は遣える?

 小説を読んでいて語彙が増えるのは至上の体験です。物語を楽しむ以外に副次的要素として、語彙が増えるのは素晴らしいこと。問題点は、それを遣ったところで、相手が理解をしてくれない可能性があることでしょうか。それは悲しいことですが、ままあることでもあります。

 私の体験したエピソードでは<曲解>という言葉を職場で遣ったら、誰も意味が分からなかった……ですね。「それは曲解ですよ。私の意図はこうなのです。穿った見方をされると……」という会話をした時に、「え、<きょっかい>って何?」と言われてしまい、まずったなぁと感じました。その場には5〜6人いましたが、誰も曲解の意味を知らず。言葉のチョイスを誤ったことを自覚しました。しかし、曲解ってそこまでマイナーな語句だったのだろうか? 未だに疑問が残る。職場の面々も変わったし、今度久しぶりに遣ってみようか……何て、悪いことを考えておりますが。しかし、表現として曲解を遣わなければ、微妙にニュアンスが変わってしまうことってあるし……誤解とは意味が異なるし……この辺り、会話をする時って難しいですよね。

 さて、トゥリビアルですが、数学的にはメジャーな言葉のようです。意味は<自明な>だそうです。理系の大学生には通じるのだろうか? 会話で遣うのであれば「そうですね、それはトゥリビアルです。であれば……」といった具合か。うーむ。これを実際に遣ってみよう! と思うことは簡単だけど、相手に理解されるかどうかを念頭に置くことは出来ないので、ある意味では実験になってしまうな。ちょっとやってみようとは思うので、どうなったかの結果はまた記述したい。トゥリビアルの響きは格好良くてとても好きなのですけどね。

今回のトリックは大抵の人が解ける

 ミステリ小説で犯人のトリックを看破することは読者にとっても重要です。私は賢く無いので、ミステリを読んでいても「自分にトリックが解けることはない!」と考えながら、半ば諦めつつ読んでます。それでも、何となく解こうとはしているのですが、明確に解けたことはありません。そんな私でも本作のトリックは解けました。案外、難しくありません。しかし、ここで思ったのは「私でも解けたのだから、大抵の読者は解けるだろう。作者もこのことは織り込み済みだろう」でした。そうであるならば、恐らく、本書の狙いは別のところにあるのだろうな、と推察しながら読み進めていくと、やはり別の謎が用意されていました。その別の謎は、本書の冒頭から気を付けて読まなければ解けないし、ストーリーの中で明確に答えが記述されているわけではないので、正解への解釈は読者任せとなっている。ただ、その謎についてもキチンと一定の答えに辿り着けるように気を配って書かれているので、そういう意味ではタイトル通り、非常に数学的な小説ともいえる。元来、数学の答えは1つと言われているけど、解き方は無数にあります。読者が、どのような読み方をするかは千差万別ですから、どういった経路で本書の本来の謎を解くのかを議論するのは、とても楽しいことなのではないでしょうか。結果に至る道筋の話ですね、近道も遠回りもあるでしょうし……。

 出題者にとっては、挑戦者が問題の答えにどう辿り着くのかを観察するのが、最も楽しいことなのではないかと思います。出題者の意に反して、アクロバティックな方法で答えを導き出してくれる人を待っているのが、出題者という存在であると。

 本作の謎についての解答は私も持っていますが、此処には書きません。

もう一つ向き合いたい問題

 さて、本作で犀川先生と西之園萌絵が殺人事件に巻き込まれるのも3回目です。世に言う、金田一問題、コナン問題のように、職業が探偵や警察でない人物が日常生活でこういった事件に遭遇し続けることに対して、森博嗣は物語に織り込んでいくのだろうか? メタ的な視点となってしまうため、この部分に関してのツッコミは難しいことは承知なのだけど、理知的な犀川先生であれば「これはおかしい……」と疑問を抱いてくれるのではないかと楽しみです。ただ、西之園萌絵の親類に警察がいるので、事件に巻き込まれやすくなっている事実はある……だとすればスルーされてしまうのも仕方がないけど、私はメタ的な視点もミステリ小説シリーズの主人公には必要なのではないかと感じているので、何かしらあると良いなと勝手に期待している。

「私、負けることなんて考えられない」

「そう、それが君の最大のウィークポイントだ。つまり、それが、君のリミットを決めている。ウィーケスト・リンクだよ。鎖は一番弱い輪で切れる」

by西之園萌絵&犀川創平(森博嗣/『笑わない数学者 Mathematical Goodbye』より)

 本日はここまで。【管理番号:も001-001-003】

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