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難病少女の願いを叶える『君は月夜に光り輝く』を読みました《評価・感想・レビュー》

死が間近の少女との関わりを淡々と描いた作品

 本作は第23回電撃小説大賞<大賞>を受賞した作品。前回紹介した『ただ、それだけでよかったんです』と同様に大賞なんです! 別に私は大賞作品を選定して本を買っているわけではないのですが、この作品も表紙の印象が良かったんですよね。超泣ける! みたいなのを期待して買ってみました。実際はどうなんでしょうか。

『ただ、それだけでよかったんです』は私の壮絶な勘違いで感動作ではありませんでしたが、本作は帯文とか、作品紹介とかちゃんと読んで購入しましたから、ストーリーは期待しても良いはずですが……。

 そういったわけで、早速読んでみたところ、なかなか良いお話というか「すごく真っ当な内容だな」という印象を受けました。意外性はなく、とっても淡々としているのですが、作者が描きたい世界は伝わってきました。題材が<難病>ですから、読み手側の好き嫌いもあるでしょうけど、別に病気だけを前面に押し出しているわけでもありませんし、色々な試みもされていて、リーダビリティも高く読みやすかった。読後感も悪くありません。しかし、強烈に胸に突き刺さるものはなかったかな。

 作者の力量はこれから伸びていきそうな印象ですので、次回作に期待したい。本書は324ページですが読書時間は3時間程度でいけそう。圧倒的に読みやすいので。

 あらすじ

 高校生になった僕は友人から頼まれ、一度も会ったことがないクラスメイト渡良瀬まみずに会いに行くことになった。彼女は「発光病」という難病に侵されており、余命が幾許も無かったが、彼女には死ぬまでにやりたいことがあった。僕は彼女がやりたかったことを代わりにやることに決める。そうして、僕たちの濃密で儚い関係が始まった──。

dengekitaisho.jp

難病というジャンルの難しさ

 いつも通りですが、この辺りからネタバレを含む感想となりますので本書を未読の方は読んでから読もう!

 さて、『君は月夜に光り輝く』で題材となる<発光病>というオリジナルの病気について、この病気は発症してしまうとほぼ確実に死に至ってしまうという恐ろしいもの。効果的な治療方法は確立されておらず、ヒロインのまみずちゃんもご多分に漏れず死を待つ身なのでした。

 発光病の患者は月に照らされると体が仄かに発光します。死が近付くにつれて光の強さも増していくという感じなのですが、これだけ聞くと「儚い! なんて切ないんだ」とは思いますけど、病気のメカニズムについてはほとんど説明がないんですよね。私は発光病がいつから世の中に現れたのか、その成り立ちや病理学的な観点からの記述、発光病の原因と医学が直面している問題、治療方法を編み出すことが出来ない理由とか、そういうある種、SF的な要素を述べて欲しかった。これがあれば、もう少し発光病というものに対してのリアリティを感じることが出来たはずなんだけど、まぁ意図的に削ぎ落としたのかな? 病気の背景を長々と描くよりは、主人公とヒロインの交流に重きを置くべきと判断したのだろうとも思うし、実際に主人公とヒロインの心の触れ合いが主軸にはなっていたけど、病気でヒロインが死ぬなら<何だか良く分からない病気で、何となく死ぬ>よりは、もう少し外堀を埋めて、説得力を持たせた病気設定をして欲しかったのもあったりする。難しいですよね……。デビュー作ですから、投稿するのに文字数の関係もあって、なかなか上手くはいかないのも分かるけど。

 身体が発光するという部分から深海魚を思い起こしていたのですが、そのあたりと絡めるのもアリだったんじゃないかと。ある免疫を持たないヒトに限定で感染する発光バクテリアがいたとして、そのバクテリアは人体で徐々に増殖し、月光に反応して光る度合いが強まっていくとか。しかし、そうなると発光するということに対して気味の悪さが生じてしまうだろうか? まあ、つまりは私の趣味なのでどうでも良いことなのだけど。

主人公とヒロインの関係性

 これはとても爽やかで良かった。青春してるね! って感じ。ヒロインの無茶な願いを叶え続ける主人公には必然性は感じられないのだけど、主人公がある理由から人生投げやりに生きていることに対して、<彼女の願い>が主人公の生きる目的に変わっていっていったのは上手いプロットだなと思いました。そこが重なったお陰で、主人公の毎日に張り合いが出て、人生が変わっていくというのは読み手にとっても楽しい瞬間なので「いいなぁ」と。

 私も超絶美人な娘にお願い事をされたらそれを叶えるために頑張るでしょう。人間って目的を持って生きるには切っ掛けが必要ですから、本作の主人公にとっての切っ掛けが、渡良瀬まみずとの出会いだった、というのは運命的でロマンチックで美しい。儚くて簡単に崩れてしまいそうな関係性だけど、だからこそ逆に強固に繋がっていたのかも知れませんね。最終的に関係が終わってしまう時が見えていたからこそ、それまでの間は……というわけで。

救われないのが良い

 こういった主人公とヒロインの物語で、特にヒロインが窮地に立たされている時、読者の願いとしては「救われてくれ〜!」なんだけど、実際この作品でも渡良瀬まみずが「救われないかな〜?」と思いながら読んでいたのも事実なのだけど、最終的に救われないのが良いですよね。本作の不治の病である<発光病>は生還している者が皆無ですし、物語の冒頭からヒロインが救われないってことも理解は出来ているのですが、それでも助かって欲しいなぁ、と思うのはやっぱりキャラクターの魅力なんだと思います。純粋無垢な人物には死んで欲しくはない。だからこそ、ちゃんと最終的にきっちりと亡くなるのは作者が誠実に物語を描いていることがよく分かって「真っ当な小説だな!」と感心しました。それだけ展開も丁寧だったってことです。

 死ぬと分かっていた人物が死ぬ物語を淡々と描くことは、そりゃ意外性とか驚きとかは少ないですし、私のような曲がった人間にとっては心に残るものもそんなに無いのですが、別に本書が退屈だったということはありません。真っ直ぐな気持ちを持ったまま真っ直ぐにエンディングへと突き進んでいく、そんな作者の矜持が見えた作品です。

 きっと、この作品は全体的に見ると悲劇の物語なのでしょうけど、それでも希望に溢れている結末でしたので、何とも読後感は良いのでした。

 作者の佐野徹夜による次回作も楽しみです。ちゃんと買って読もうと思います。

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