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あらゆる意味で崖っぷち!? 壮大な企みに満ちた『崖っぷちの男』を鑑賞しました《評価・感想・レビュー》

邦題のタイトルセンスが良くて惹かれる

 何が良いって<崖っぷち>って言葉が良いですよね。原題も『Man on a Ledge』ってことで、結構そのままな気はしますけど、崖っぷちって焦燥感とか悲壮感とか、そんなイメージを上手に表現出来ていて好きです。追い詰められて追い詰められて──死ぬか生きるかのDEAD OR ALIVE、そこから大逆転をして勝利する! というのがタイトルだけで読み取れるのが非常に優れています。きっとこの映画は王道のエンタテインメント・サスペンス、起承転結がハッキリしていて分かりやすくて気楽に観られる、はずだ。

 そう思って鑑賞しました。実際はどうなんでしょう? ここまでに書いた内容はイメージで、勝手な先入観ですからね。

あらすじ

 ニューヨークにある高級ホテルの高層階、窓の外に立ち今にも飛び降りようと装う脱獄囚のニック・キャシディ(サム・ワーシントン)は並大抵ではない決意を固めていた。ニックは元警察官だったが、不当な策略に陥り、4000万ドルのダイヤモンドを横領した罪に問われていたのだ。

 彼は自らの無実を証明するため、一世一代の賭けに出ることにした。この崖っぷちの状況こそが、彼が多くの時間を掛けて用意した重要な舞台だった。

 ニックは自らの指名で女性刑事リディア(エリザベス・バンクス)を交渉人に指名するが、果たしてニックの思惑とは? 如何にして過去の汚名をそそぐのか? ニューヨークの一角でニックが巻き起こすパニック、多くの群衆の前で、極限のエンタテインメントが始まる……。

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何となく、あの名作を思い出す

 地上と高層階の違いはありますが、一つの場所に留まるサスペンスなシチュエーションということで、コリン・ファレル主演の『フォーン・ブース』を思い出します。『フォーン・ブース』は傑作ですよ、電話ボックスに閉じ込められるって発想も良かったですね。展開が早く結末まで見ても謎の多い作品ではありますが、一度は観て損は無いと思います。ふと調べてみたら電話ボックス映画は2003年作品だった……14年前かよ! 歳も取るわな。

 さて、以降は『崖っぷちの男』が如何に崖っぷちなのかをネタバレしつつ書いていきます。未見の方はご注意ください。観てから読んでください。

やっぱり高層階でドタバタするって設定が良い

 この作品の肝ですが、主人公が目的も分からないままに高層階の窓の外で右往左往する姿がとにかく良いですね。シチュエーションとして、これほど引きが強いのも珍しいのでは? 鑑賞者としては「何故そうなった? どうしてそんなことを?」と興味を抱きながら鑑賞することが出来る。物語冒頭でニック・キャシディは女性刑事リディアを呼び出すが、このリディアこそが我々、鑑賞者側の味方である<探偵役>となって、ニックと対峙し、彼の行動の謎を探ってくれる。

 リディアはリディアで、ある種の問題児ではあるが、この映画で登場する刑事達の中では感情移入がしやすい魅力的なキャラクター造形だった。男勝りのおてんば女刑事ということで、週刊少年ジャンプの連載終了した人情警察漫画に出てきそうな感じもあったが、アメリカの実際にいる女刑事ってどんな感じなんだろう? という、どうでも良い妄想も広がることに。

 まあ、そんなことは本当にどうでも良いのですが、彼女とニックのやり取りが自殺志願者と交渉人の間柄とは思えない程にゆるくて、緊張感があまりない。まぁ、ニックには元より自殺する気は無く演技なのだから当然ですが、ここについてはそんなにハラハラドキドキはしないので、もう少し緊張感を高める設定もあって良かったんでないかな。

ニックの目的とは何なのか?

 ニックの目的はあらすじの項にもある通り、ダイヤモンドを横領したという無実の罪を払拭することです。彼を陥れたのは宝石商にして不動産王、つまり究極のアメリカ的金持ちであるデビット・イングランダー(エド・ハリス)なのですが、実はデビットがニックに盗まれたと主張する巨大ダイヤモンドは、実は盗まれていなくて、まだデビットが所持しているというのです。

 この物語の背景を簡単に説明すると、デビットが経済危機(リーマン・ショックだったかな?)で事業が立ちいかなくなる可能性が出てくる→何とか資金を調達しなければならないので保険金詐欺を思いつく→ニックが警官時代にデビットのダイヤモンドを盗んだと濡れ衣を着せられる→ニックまんまと逮捕、ダイヤモンドは砕いて既に売り捌かれたということにされる→デビット、何も盗まれてないけど多額の保険金GET!! やったね! という感じ。つまり、ダイヤモンドはまだデビットの手元にあるはずだから、それが存在することをニックが証明出来れば晴れて無実を立証出来るわけです。

 そのためにニックが考えたのは、デビットのダイヤモンドを盗み出して盗まれてないことを証明する……って結局、盗むんかい! 当然のツッコミを入れざるを得ませんが、無法には無法という如何にもアメリカらしい発想で嫌いではありません。一発殴られたら一発殴り返したくなるのが人間味溢れています。

裏舞台で展開されるなんちゃってミッション:インポッシブル

 先の項で書いた通り、ダイヤモンドを盗まなきゃならないのですが、デビットは要塞ばりの大型金庫にそれを保管しているので、そんな簡単に事は進みません。ニックは自らの親族を協力者にしてそれを盗み出そうとするのですが、これがミッション:インポッシブル感満載の内容だったりします。

 数々の防犯装置を潜り抜けて金庫破りをするニックの身内は間違いなく素人さんのはずなのですが、見事に目的地まで到達。描かれてなかっただけで潜入・強奪のプロだったのかな? 数々の偶然に助けられながら金庫破りを達成してダイヤモンドを手に入れようとするも破った金庫にダイヤモンドがない!? という逆転ホームラン的な展開には「デビット流石やな」とニヤついてしまうこと受け合いですが、この後のダイヤモンド争奪戦に移っていく原因もデビット自身が気紛れで金庫からダイヤモンドを取り出してしまうことが発端ですので、ご都合主義感が半端じゃなく「どうして映画の悪役は屈強な金庫を信用出来ないのか問題」がまた噴出することとなるのでした。お約束ですけどね。

とにかくツッコミを入れたい二つのこと

 色々と書いてきましたが全編通して至って普通に観られて良い作品でした。あくまで普通ですけども。

 ただ、どうしてもツッコミたいことがあります。

 まずひとつめ、ニックが物語前半で警察の拘束を逃れてカーチェイスを繰り広げるシーンがあります。その中でニックが運転する車が思いっ切り貨物列車と衝突して横転(というか、完全なる交通事故)するのですが、何故か彼は無傷でピンピンしてます。これには疑問を感じざるを得なかった。実際は擦り傷くらいは負ってたかも知れませんが、直後のシーンで塀を乗り越えたり軽快に身体を使う様子も見えてたので、何らかの手段で車から脱出したのだろうか? ならば車から飛び降りる所とか描写して欲しかった。普通に観てたら「これは完全に死んでいる。主人公死亡とは斬新!」って絶対に思うハズです。超人なのか、ハンコックなのか。

 次にふたつめ、映画の最終盤に描かれる大どんでん返し。実はあの人の正体は○○だった! というのが本作にもあるのですが、無理やり感が半端じゃなく「え!? それ必要か!? その設定いるか!?」となってしまいました。うーん、疑問です。あの人の正体が○○だったのなら、映画全体の目的意識が若干薄れてしまうような気がしてならないのですが、どうなんでしょうか。まあ、爽快感だけが残るように敢えてしているのかも知れませんね。

 というわけで、本作はサッパリした後味の良いスパークリングワイン風味のソーダみたいな映画でしたね。気楽に観られる感じです。

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