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アメリカ全体を大混乱に陥らせた世紀の嘘つきマーク・ウィテカーを描く『インフォーマント!』を鑑賞しました《評価・感想・レビュー》

最近の映画だと思ってたら2009年作品だった

 本作の主演はマット・デイモンですが、彼については肉体派で、困難な状況を打開するアクション俳優といったイメージがあります。『ボーン・アイデンティティー』の印象が強過ぎる……のだけど、そんなマット・デイモンが役作りのために15kgも増量してメタボのおっさんとなり臨んだという社会派ドラマが本作『インフォーマント!』です。

 バトルシーンは一切ないですが、それ以上に壮絶な、一人の男のとことん救いようのない姿を描いています。ストーリーは実話らしいですが、自分の周りに(特に仕事関係で)こんな人がいたら迷惑だな、と世のビジネスマンなら思ってしまう内容なのでした。

あらすじ

 アメリカ・イリノイ州の大手穀物加工会社アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド (ADM) 社に籍を置くエリートサラリーマンの主人公マーク・ウィテカー(マット・デイモン)は、ある日自分の管轄する工場のアミノ酸生産工程でウィルスが発生したという報告を受ける。その件で副会長からは責任を問われることとなるが、ウィテカーはとっさに「ウィルスを蒔いたのは日本企業だ、この会社にはスパイが入り込んでいる!」などと嘘を並べ立ててしまう。上層部はこの嘘を信じてしまい、FBIに介入を依頼することとなるが、その中でウィテカーはFBIに自社の価格協定(カルテル)について内部告発をしてしまう。FBIからは自社の不正を暴くための協力を打診され、ウィテカーはノリノリで諜報員気取りとなり、次々とスパイ活動を展開していくのだが……。


インフォーマント!(吹替版) (予告編)

リジンカルテル事件について知っておこう

  インフォーマント=Informantには情報提供者という意味があるようです。この映画の場合だと、内部告発者として意味が解釈されてますね。

 本作のポイントとしては、マーク・ウィテカーが義憤に駆られて企業の闇を告発したわけではないところです。あくまで自己の保身のため、自らの身を守るためだけに口からでまかせを繰り返すこととなります。

 その姿は非常に滑稽で、スティーヴン・ソダーバーグ監督らしい皮肉が効いたコメディとして描かれますが、なかなかどうして実話が元となっているからか、話が少し地味だからなのか、上手く入り込むことが出来ません。中盤以降は楽しく見ることが出来るのですが、若干、描き方が走り気味なので、実際に起きた<リジンカルテル事件>を詳しく知っていた方がストーリーの細かい部分を補完出来て良さそうです。私は事前知識なしで観ていたので、途中「?」となってしまう場面がいくつかありました。ウィテカーが言っていることが本当のことなのか嘘のことなのか分からなくなってしまうことがあり、ある意味では想定された演出なのかも知れないけど、難しさを感じてしまいます。

 以降の項については多少ネタバレが入る可能性があります。ご注意ください。

嘘に嘘を重ね“自ら”火だるまになるマーク・ウィテカー

 嘘を吐いてはいけないというのは人間として当然のことで、学校の先生だって「嘘を言ってはいけません!」と生徒に教えるものです。

 まぁ、嘘も嘘である程度は存在しなければ世の中はもっと居心地が悪くなるでしょうし、エイプリルフールだって無くなってしまうでしょうし、人と人の潤滑油として嘘が必要であることも否めなくはありませんが、それでも吐いて良い嘘と吐いてはいけない嘘の区別は自身でしなくてはならないでしょう。

 マーク・ウィテカーが最初に吐いた嘘は馬鹿らしいもので、自分の保身のために「ウィルス発生の原因はスパイだ! 味の素の仕業だ!」と人のせいにする所から始まるのですが、それを上司が信じてしまったせいで事が大きくなってしまいます。だってFBIが介入することになるのですから。

 軽い嘘を吐いた結果が、FBIの介入。正直な話、ウィルスが発生して上司に怒られたとしても、それ自体は不幸な話ではありますが、食品を扱う会社では起こり得ること、起きてしまったことは仕方がないのですから、自らの責任を認めて謝罪をし、問題解決のために奔走をして、再発防止の手段を講じるべきでしょう。しかし、マーク・ウィテカーという人物はとことんまで自分の保身を(無意識的に)考えてしまう人物のようで、言わなくても良い嘘を咄嗟に吐いてしまいます。そして事態はどんどん悪化していくと……。

ヤバい状況なのにその状況を楽しむ主人公

 自分の会社がカルテルに参加していることを告発してしまったウィテカーは、FBIに「スパイはいなくなったし、問題もなくなった。捜査の手を引いて欲しい!」といったようなことを言うのですが、FBIにとっては大事件の情報提供者なのですから逃がすわけがありません。ウィテカーも最初は渋々とFBIに協力するのですが、途中からノリノリで「俺は007よりも2倍賢い、だから0014だ」などという世迷言まで口にするようになります。

 はてなの方々が好きな言い方だと、まさに正常性バイアスが色濃く働いてしまったという感じ。ウィテカーは途中から「俺は企業の闇を暴いているヒーローだ。そんな自分なのだから、上層部が失脚したら自分が社長になれるに違いない!」と考えるようになります。自分の不都合な現実からは目を逸らして、物事を楽観的に考えてしまう。自分だけは大丈夫と考え、スパイ活動が正しい行いであると信じ込んでいる。この辺りは「あー、こんな人いるなー」と感じてしまいました。案外、こういった状況に陥ると、自分のことを客観的に見る事が出来なくなってしまいます。反面教師としてウィテカーの姿は参考にした方が良いかも知れませんね。

発覚するウィテカーの闇、さらに救い難い状況に

 中盤以降、FBIがついに動いてADM社の強制捜査に踏み切ります。しかし、ウィテカーが告発していたリジンカルテル事件以外にも、ウィテカー自身の闇が暴かれる結果となり、FBIの協力者であったはずが彼も捜査対象となってしまいます。その要因となったのは<脱税>で、しかも彼のそれは相当に悪質なペーパーカンパニーを利用したものでした。FBIは元々、「何故、会社から十分な給料も貰って順風満帆な社長候補とも言われる男が内部告発なんてしたんだ?」と疑念を抱いていました。しかし、この一件が発覚したことにより「脱税から目を逸らすために告発に踏み切ったのでは?」と疑われることになります。確かにそう思われても仕方がないですね。

 ウィテカーはこの件が発覚した頃から更に嘘を連発し、それなりに良好な関係にあったFBI捜査官に対しても嘘を使って牙を剝くことになりますが、もうこの姿が痛々しくて、ウィテカーは虚言癖の前に人間として大きな欠陥があるのでは? と疑ってしまいそうになります。

 物語の結末は言わずもがな、という内容ですが、個人的には「やっぱり嘘はダメだな! 嘘吐かないようにしよう!」という感想になりましたので、会社内で嘘を吐いちゃう癖のある社員の方は観た方が良いかも知れません。

 結局、嘘を吐くことによって自分の身を滅ぼしてしまうので、もしも嘘を吐くのであれば、そこまで覚悟をして嘘を吐くようにしましょう。

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