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ピンボール×ラブコメ! そのハイスコアを凌駕する圧倒的な熱意に感服『FLIP-FLAP(フリップ-フラップ)』を読みました《評価・感想・レビュー》

ピンボールに青春をかける!

 ピンボールと聞いて思い出すことは、Windowsの<ゲーム>に入ってたなぁ、ということです。昔よくやりましたね、今も健在なのだろうか? 私はそれ以外ですと、リアルピンボールはそれほどプレイしたことがありません。場末のボーリング場だかビリヤード場なんかでやったことがありますが、それも相当に昔の話なので、いつだったのかどこだったのか明確に思い出せません。そう考えると、巷で見掛けることも少なくなって来てますし、ピンボール台自体、設置されている場所が減少傾向にありそうですね。この漫画を読んだらピンボールが無性にやりたくなりますので少し残念です。ピンボールって胸を熱くさせるものがあるって知ることになりますので。

 さて、ピンボールは単純なルールのゲームですから、初めてプレイする人にも取っ付きやすいです。しかしその分、奥深さは他のゲーム以上なのではないでしょうか。筐体も数え切れないほど種類がありますし、コツ・テクニックもいくらでも存在します。それから、プレイヤーの天性の才能(反射神経とか)も重要な要素となるのではないかと思います。そういったものを駆使して、目指すのは<ハイスコア>です。これ! これが良いんですよね! HIGH SCOREを塗り替えるためだけに熱を傾ける。目標はそれだけ、つまり誰が一番かを決めるってことです。この単純さと分かりやすさが良い!

 私はオールドゲーマーですし、ファミコン大好きっ子でしたので、このハイスコアに全てを掛けることのロマンってのがとても胸に響きます。それだけハイスコアを狙うことって、あの時代、価値があることだったのです。

 ということで、本作のレビューに入っていきたいと思います。以降、ネタバレに繋がる内容がございますので、未読の方はご注意ください。

あらすじ

 とっても「普通」な深町くんは、高校最後の日に勇気を振り絞って憧れの山田さんに告白をした! 彼女は意外な返答をし、深町くんに条件を出す。「この得点(スコア)を超えること、それが私の条件です」ピンボール台の前に立ち、彼女はそう言い放った! 「変です!!!」と言いつつも深町くんの険しく厳しいピンボール道が始まるのだった。

出会ったキッカケがどうであっても、夢中になるのは理由じゃない

 主人公である深町くんは<あらすじ>にもある通り、山田さんと付き合うためロクにやったこともないピンボールを始めるのですが、なかなかどうして才能があるようでメキメキと上達し、ハイスコアを伸ばしていきます。山田さんが超えろと言い放ったピンボール台のスコアは尋常なものではありません。3,123,670,320点です。これ、全くそのゲームをプレイしたことがない人でも凄いスコアだなって、パッと感じてしまいますね。とても上手い心理効果を生んでいます。深町くんも同じことを思ったでしょう。「こんなの超えるの無理!」なんて。

 しかし、何かに挑戦を始めた時って、それが単純であれば単純であるほど、超えるために意地になってしまうんです。少しずつ上達していって、現実的にそれを抜ける可能性が見えて来たら尚更「次でいける!」なんて気持ちになってのめり込んでしまいます。

 つまり、それが熱意ってやつです。その状態になったら既に夢中ってことなんでしょう。

 深町くんは当初自分で感じていたよりも深く深くピンボールの世界にのめり込んでいき、そして先述のハイスコアを少しずつ視野に捉えていくこととなります。届きそうで届かない感じがもどかしい。この過程の描き方が心理描写も含めて丁寧で、好感を持てました。また、届きそうで届かないってのは、恋愛にも通ずるところで、本作でいえば<山田さん>なんだろうなと。ハイスコアに届けば山田さんに手が届く。深町くんにとって、最初はハイスコアを超えることは山田さんと付き合うための手段だったのでしょう。ただ、物語が進むにつれて、純粋にハイスコアを超えることこそが深町くんの目標に変わって来ます。ピンボールを好きになる、ピンボールに青春をかける。楽しいこと、自分が好きなことを見付けて満喫する。それって、めっちゃ素敵なことです。

 この漫画を読んでいて、自分が何かを好きになっていく体験ってこうだったな、と思い出すことが出来ました。そうだよな、理屈じゃないよなって。好きなことを好きになる時、夢中になるのは何故かって簡単には説明が出来ない。いや、理由がないということが本当なのかも知れない。

山田さんと深町くんの周囲の人々

 この作品には悪い人間が出て来ません。漫画なのにそれって珍しいのですが、不自然さを感じることもありませんでした。実は、山田さんを狙って深町くんと同じ条件を出された彼氏候補の方々が沢山いて、ライバルみたいなもんなのですが、彼氏候補の皆さんは他の彼氏候補を邪魔したり妨害したりということはしないのです。みんな協力的で、むしろ誰かにハイスコアを超えて欲しがっている。運命共同体というか、ずっとハイスコアと戦い続けて来たから、誰かが勝つところを見たいのでしょう。勇者を待ちわびる村人の心境に近いのかも知れないですね。誰かが倒してくれないと永遠に解放されないわけですから、そう考えるとシビアです。

山田さんと恋

 山田さんは当初、自分に告白をしてくる男性を上手くたしなめるために「自分と付き合うのであればハイスコアを超えること」を条件としていたのではないかと思います。しかし、(自分以外に)ピンボールと真剣に向き合う人を無意識的に待っていたのかも知れません。自分の価値観と合致する男性ってそうはいないはずだから、それを見付けるための手段を取っていたのかも知れないですね。自分と一緒になって本気でピンボールと向き合い、例のハイスコアという高い壁を超えてくれる人を待っていたと。そこにもロマンを感じます。深町くんは本当に勇者だったのかも知れませんね。彼女にとっても。

 そんな感じで、本作はピンボールの魅力と共に爽やかな青春ラブコメを展開してくれて、しかも1巻完結であることもオススメの要素です。サクッと読める名作なので、スポーツドリンクでも飲みながら読むのも良いかと。

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